【精神文化】ティクナ族の大人の階段

山口吉彦アマゾンコレクション
「Sonhos de Amazonia ―ともに生きる森―」
(致道博物館にて2020年4月3日~6月8日に開催)

【精神文化】ティクナ族の大人の階段

アマゾン先住民のコミュニティにおいて、儀礼は生活のすべてに関わる重要な行為です。日本の冠婚葬祭と同様に誕生、成人、結婚、死など人生の節目に祝い祈ります。その他にも、豊猟・豊作祈願、相撲に似た格闘競技、また疫病や悪霊から守るための祈祷など数々の儀礼が存在します。すべての儀礼には精霊や先祖の霊と交信するという共通の目的がありますが、各部族によりその儀礼法式は異なります。そのため、部族特有の習慣を深堀りすると、より面白い発見に出会うことがあります。

本展では、先住民の儀礼を紹介する上で、仮面や樹皮布製着ぐるみの工芸に抜群のセンスを感じさせる「ティクナ族」にフォーカスを当てました。再現したのは、「成女式」のクライマックス。牙をむき出しにした黒い顔の怪物、いかにも悪賢そうな魔物、大蛇アナコンダ男など…、13体のおどろおどろしい(しかし、どことなくユーモラスな)悪霊たちが、汚れなきヒロインに襲い掛かろうとするワンシーンです。実際の儀礼では、これらの全身を覆う仮面の中に、村人たちが入って威嚇します。そもそも成女式とは、女性が成人として生まれ変わるための通過儀礼であり、そこには長く厳しい訓練が伴います。

かつてはティクナ族の若い女性は、適齢期になると人里離れた小屋に隔離され、母親と一部の女性だけが接触を許されました。隔離期間は最長3年間にも及び、その間、彼女たちは女性としての責任や、糸紡ぎ・土器作りの技術、そして部族の神話や歴史について学びます。長い修行を終えて小屋から出たその瞬間、先述した悪霊たちが現れ、女性たちを取り囲むのです。彼女たちは自らを魔の手から守り、伝統に基づいた方法で退散させなければなりません。彼女たちの運命はいかに……。

以上、「次世代を継ぐ若者たちから逞しく、賢く育って欲しい」という人類共通の願いが込められた儀礼の一部を紹介しました。今回、致道博物館の学芸員やボランティアの皆様の協力により、約半世紀ぶりに命をふき返したこの仮面劇は、父と私にとっても意義深い舞台となりました。(山口考彦)

荘内日報 掲載

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