【精神文化】 病魔とマスク

山口吉彦アマゾンコレクション
「Sonhos de Amazonia ―ともに生きる森―」
(致道博物館にて2020年4月3日~6月8日に開催)

【精神文化】 病魔とマスク

今や私たちの生活必需品となったマスク。アマゾンの先住民たちもマスクで病から身を守ります。とは言っても、彼らが使うのは、顔全体を覆うマスク(ポルトガル語でmascara)、すなわち仮面です。私たちの着用するマスクは、病原菌やウィルスの感染・拡散を物理的に遮断するための道具である一方で、先住民のマスクはアマゾンの森に宿るエネルギーを吸収するためのものです。

先住民たちは、「病気=悪霊が取り憑くこと」と考えます。村で病気が発生したときは、儀礼を司るシャーマン(呪術師)が治療にあたります。彼らは伝承された薬草を煎じる知識にも長けていますが、なんと言っても伝家の宝刀は森の精霊や祖先の霊を召喚する病魔退治です。彼らがマスクを身に着けると、精霊が乗り移り、悪(病魔)を退けるために必要な呪力が高まると信じられています。

勇猛なジャガーの精霊や神話の英雄が施されたマスクの佇まいから、個人的に幼い頃テレビで夢中になった仮面姿のヒーローを回想します。そして、アマゾンには、その数千年もの前からマスクで変身し、超人的な力で悪を断つ風習があったことを考えると、心が更に揺さぶられます。

おそらく多くの方は、「呪力や非科学的な方法では病気は防げない」と思われるかもしれません。私も、それを否定はしません。しかし、現実主義の名のもとに便利さを追求し、自然支配を試みる人間の驕りが、(昨年の大規模なアマゾン森林火災に然り)環境破壊や先住民の人権を無視した開発を引き起こしている現実は、看過してはならないことだと思います。

特に”病魔”が命や健康のみならず、人間の理性をも揺るがそうとしている今、先住民の精神文化は、本質的な”人間らしさ”とは何かを私たちに問いかけます。自らを振り返り考えるとき、彼らの英知は、我々現代人の疲弊した心をも癒す力をもたらすと、私は信じて疑いません。(山口考彦)

荘内日報 掲載

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